草食系院生ブログ

「労働」について思想史や現代社会論などの観点からいろいろ考えています。日々本を読んで考えたことのメモ。

2012-11-01から1ヶ月間の記事一覧

ポリス・統治・生権力 -フーコー『安全・領土・人口』より part2

前回からの続き。 スミス-フーコーによれば、17世紀以降に出現した「統治としてのポリス」は、発展しつつある商工業(資本の増殖運動)をスムーズに機能させるための諸機能であり、具体的には都市の公衆衛生を高め、犯罪率を減らし、都市間の流通経路を確保…

内政としての「ポリス」とは何か? -アダム・スミス『法学講義』とフーコー『安全・領土・人口』より

アダム・スミスは『法学講義』のなかで、ポリスpolis(内政・生活行政)の役割について論じている。スミスによれば、ポリスはもともとギリシア語の「ポリテイア」から出たものであり、それが本来意味していたのは「国内統治の政策(the policey of civil gov…

「人間」の時代の到来とその終焉の予言 -フーコー『言葉と物』より

前回の記事で書いた、アダム・スミスの労働価値説について、フーコーが『言葉と物』のなかで興味深い指摘をしている。よく知られているように、フーコーは『言葉と物』のなかでルネッサンス以降の西洋の知の枠組み(エピステーメー)の変遷を描いてみせた。…

分業、交換性向、労働価値説 -アダム・スミス『国富論』より

今回は、経済学の父、アダム・スミスの労働観についてです。 アダム・スミス(1723-1790) アダム・スミスの『国富論』が、ピン工場の分業の例から始められていることは有名です。一人の職人がピンを最初から最後まで製造するよりも、複数の労働者で作業を分…

労働による「文明化」への道 -ヒュームの積極的労働観

今回取り上げるのはヒュームの労働思想です。ヒュームは18世紀イギリスで活躍した思想家であり、アダム・スミスに並ぶスコットランド啓蒙の代表的思想家とされています。ここではヒューム研究の第一人者である坂本達哉さんの『ヒュームの文明社会』および『…

イギリス史概観(16世紀~17世紀)

ここで山川出版社の『詳説 世界史研究』や小室直樹『日本人のための憲法原論』を参照しつつ、16世紀から17世紀にかけてのイギリス史を確認しておきたい。イギリスの思想家を中心とする労働思想の発達を確認するうえで、イギリスの歴史を押さえておくことがそ…

労働と貨幣 -ジョン・ロック『統治二論』より part2

前回からの続き。 完訳 統治二論 (岩波文庫)作者: ジョン・ロック,加藤節出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2010/11/17メディア: 文庫購入: 10人 クリック: 94回この商品を含むブログ (75件) を見る ロックは労働によって所有権を基礎づける労働所有権論を提…

労働と所有権 -ジョン・ロック『統治二論』より

16~17世紀のイングランドを中心に、勤労規範が形成され、貧民・浮浪者が「労働者」へと仕立てあげられていく過程をみてきました。このような時代背景を背に、労働という行為を積極的に評価する思想が登場してきます。そのひとりが、『統治二論』において自…

労働を通じた「教育」と「矯正」 -フーコー『狂気の歴史』より

前々回の記事で、16世紀のイングランドにおいて救貧対策が開始されたことについて書きました。復習しておくと、ヘンリ8世の時代(位1509-1547年)に、貧民を病気等のために働けない者と怠惰ゆえに働かない者に分類し、前者には物乞いの許可をくだし、後者に…

「労働倫理」の誕生 -ウェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』より

前回の続き。資本の本源的蓄積の結果、16世紀イングランドにて都市に増加した貧民・浮浪者への対策として、彼らを労働能力がある者とない者とに分け、後者には最低限の生活保障を与え、前者には強制的に労働を義務づける施策が行われました。ここに「働かざ…

救貧対策の誕生 -マルクス『資本論』から資本主義の本質を考える。part 6

前回までの記事で、マルクスの「本源的蓄積」(原始的蓄積)の議論を用いて、労働力という特殊な商品が国家の論理によって暴力的な過程を経て産みだされてきたことを見てきました。これが典型的に起こった16世紀イングランドの「囲い込み運動」の結果、土地…

「囲い込み運動」と「本源的蓄積」 -マルクス『資本論』から資本主義の本質を考える。part 5

前回の記事では、資本主義の発動条件として「生産者と生産手段との歴史的分離過程」、すなわち「資本の本源的蓄積」が必要とされたことを書きました。この歴史的分離過程は、典型的には16世紀からイギリスで行われた「囲い込み運動」のうちに確認することが…

資本主義と国家 -マルクス『資本論』から資本主義の本質を考える。part 4

前回、労働力という商品は元から市場に存在してるものではなく、歴史的過程のなかで人為的・暴力的に生みだされてきたものである、と書きました。労働者が賃金と引きかえに労働力を提供するという交換の形式が普遍化している事態は歴史的に特殊で珍しいもの…

「二重の意味で自由な労働者」とは誰か? -マルクス『資本論』から資本主義の本質を考える。part 3

前回の記事で、G-W-G' という資本の価値増殖を可能にさせるのが「労働力」という特殊な商品であることを書きました。ところでこの「労働力商品」は、自然にもとから存在していたものではありません。それは人為的・強制的に創りだされなければならなかった…

「労働力商品」の特殊さ -マルクス『資本論』から資本主義の本質を考える。part 2

前回の続きです。前回は、マルクスの『資本論』を用いて資本の本質が「価値の無限増殖運動」にあること、資本の一般定式がG-W-G' で示されること、を説明しました。 ところで、このG-W-G' という資本の一般定式はあくまで等価交換に基いて実現され…

マルクス『資本論』から資本主義の本質を考える。

これまでの記事のなかで何度か「非-資本主義的経済圏」を創出・再興することが必要だと書いてきました。「非-資本主義的経済圏」とは具体的にはどのようなものなのか?今回はそれを考えてみます。 非-資本主義的な経済圏がどのようなものであるかを考える…