草食系院生ブログ

「労働」について思想史や現代社会論などの観点からいろいろ考えています。日々本を読んで考えたことのメモ。

どうして先進諸国の失業率が上昇しているのか?

  僕が大学に入学したのはもう10年以上前ですが(月日の流れる早さは恐ろしい)、その頃はまだ「数年後には団塊世代の大量引退が始まる、すると少子高齢化が進む日本は労働力不足に陥るだろう、この労働力不足をどうやって解消するかが問題だ」という議論が真剣になされていたように記憶しています。そのためにもっと女性の社会進出を促進するべきだ、海外から人材を招き寄せるべきだ、元気な高齢者にはしっかり働いてもらう、等々。もちろんこれらはそれぞれに重要な課題であって、今でもいろいろと議論はされていますが、10年前に比べればずいぶんトーンダウンしたように思います。

 

 それもそのはず、現在、先進諸国が共通して抱えているのは「国内雇用の不足」「高失業率」という問題だからです。「労働力不足」ではなく「労働力過剰」こそが大きな課題となっている。2012年の日本社会がこのような状況に置かれていることを10年前に正確に予想していた経済学者・社会学者はそう多くなかったでしょう。興味がある人は10年前にいわゆる識者たちがどんな発言をしていたかを調べてみられるといいと思います。

 下図は1980年から現在に至るまでの主要国の失業率推移を示したものです。ほとんどの主要国で10年前に比べて失業率が上昇していることが見て取れます。もちろん細かく見れば各国ごとにさまざまな背景があるのですが、大きな世界経済の流れとしてみれば、この10年間で先進国の失業率が上昇傾向にあることは間違いありません。

 

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社会実情データ図録:http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/3080.htmlより。

 

 なぜ先進国の失業率が上昇傾向にあるのか?これもさまざまな理由があります。短期的に見れば、やはり08年のリーマンショックに伴う世界不況、そして昨年以降続いている欧州の財政危機、それに連動した中国や米国の景気回復減速が大きな影響を及ぼしています。日本の東日本大震災福島原発事故も少なからず影響を与えています。この世界経済の停滞状況はまだしばらく続くと見られます。(経済学者の柴山桂太さんはこれを「静かなる大恐慌と呼んでいるほどです。)

 

静かなる大恐慌 (集英社新書)

静かなる大恐慌 (集英社新書)

 

 しかしそれだけではありません。短期的な金融恐慌が引き金になっているとはいえ、もう少し長期的な傾向として先進諸国の国内雇用が急激に縮小していることこそがより重要な問題です。どうしてそのような事態が生じているのか。これにもいくつかの理由がありますが、大まかにいえば、グローバル化と②インターネット化の影響が大きいと言えるでしょう。このことを分かりやすく解説してくれているのが、野口悠紀雄さんの『資本開国論』です。次回の記事でこのことについて詳しく解説してみたいと思います。