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草食系院生ブログ

「労働」について思想史や現代社会論などの観点からいろいろ考えています。日々本を読んで考えたことのメモ。

なぜ社会的企業が注目されるのか? -「社会貢献」への欲望

 前回はオープンソース運動を例にとって、ネット上でどのような利他的行為が発現するのか、ということについて書きました。利他的行為といっても、それは「純粋な利他的行為」ではなく、利他的であると同時に「承認への欲望」や「コミュニティへの欲望」に支えられたものなのではないか、と。つまり利己性と利他性は必ずしも矛盾するものではなく、利他的であると同時に行為者の利己的な欲望を満たす場合もありうるのではないか。

 

 それに少し似たケースとして、近年注目されている社会現象として社会的企業」(Social Enterprise)があります。社会的企業とは、ビジネスの手法を通じて社会問題の解決を目指す企業のことをいいます。ソーシャル・ビジネスと呼ばれることもあります。従来は、貧困問題や教育問題、町おこしなどの社会問題はボランティア活動を通じた解決が図られることが多かったのですが、社会的企業は社会問題の解決に取り組みながらきちんと収益もあげていこうというアプローチをとっています。

ソーシャル・エンタープライズ―社会的企業の台頭

ソーシャル・エンタープライズ―社会的企業の台頭

 

社会起業家―社会責任ビジネスの新しい潮流 (岩波新書)

社会起業家―社会責任ビジネスの新しい潮流 (岩波新書)

 

 社会的企業が有名になったきっかけのひとつは、2006年にノーベル賞を受賞したムハマド・ユヌスのグラミン銀行の取り組みです。グラミン銀行はバングラデシュでマイクロクレジットという手法を用いて貧困層への低金利融資を行っており、バングラデシュの貧困問題解決に寄与したとされています。5人一組でグループを組ませて連帯責任を負わせる(連帯保証ではない)というユニークな方法をとり、利用者の97%が女性で、貸し倒れ率は2%を切っているとのこと。貧困の連鎖を断ち切り、貧困層(とりわけ女性)の働く意欲を高め、経済的・社会的自立を高めたと言われています。

参考サイト:グラミン銀行のマイクロファイナンス制度

貧困のない世界を創る

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グラミン銀行を知っていますか―貧困女性の開発と自立支援

グラミン銀行を知っていますか―貧困女性の開発と自立支援

 

 日本での社会的企業の例としては病児保育に取り組んでいるNPO法人フローレンスが有名です。フローレンスは社会起業家である駒崎弘樹さんが現在の日本では病児保育サービスが圧倒的に不足しているという問題意識から始められたものです。フローレンスは、一般的な「病児保育施設」の仕組みとは異なり、「非・施設型」という仕組みを取っています。病児保育スタッフとしての研修を受けた子育て経験者が「レスキュー隊」として在宅で病気の子どもを看るというシステムになっているとのこと。これによって病児を預けて働きたい親と、在宅で働きたい子育て経験者との双方のニーズを満たすことができます。起業家の駒崎弘樹さんとしては、単に病児保育問題を解決するだけでなく、そのことを通じて日本人の「働き方改革」をしたいという想いがあるようです。

参考サイト:病児保育の新しいかたち「フローレンス」

「社会を変える」を仕事にする 社会起業家という生き方

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働き方革命―あなたが今日から日本を変える方法 (ちくま新書)

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 また株式会社マザーハウスでは、バングラデシュの貧困問題を解決するために現地に革製品をつくる工場をつくり、そこで雇用を生み出すとともに、デザイン的にも優れた革製品(バッグ、財布など)を生産し日本で販売するというソーシャル・ビジネスを行っています。この会社を起業された山口絵理子さんの活動は情熱大陸でも取り上げられました。また会社ホームページのマザーハウス・ストーリーにもまとめられています。

 


情熱大陸 マザーハウス 山口絵理子 1 of 2 - YouTube


情熱大陸 マザーハウス 山口絵理子 2 of 2 - YouTube 

 

 さらには、 先進国の食事代に数十円上乗せした金額分を途上国への寄付に回すことで途上国の食事状態改善を目指すTABLE  FOR TWOプロジェクトなど、現在では日本でもさまざまな社会的企業が存在します。

 ここで考えてみたのは、なぜ近年の日本で社会的企業(起業)が注目されるようになったのか?ということです。社会的企業への批判のひとつとして、どのような企業であれ何らかの社会的意義を持っているからこそ存在しているのであり、ことさらに「社会問題をビジネスで解決する」ことを前面に押し出した「社会的企業」などと名乗る必要があるのか?というものがあります。確かにその批判には一理ありますが、ここで考えるべきは、それにもかかわらず、なぜ「社会問題の解決」を前面に押し出すことがそれほど注目を集めるようになったのか、ということではないでしょうか。

“想い”と“頭脳”で稼ぐ 社会起業・実戦ガイド 「20円」で世界をつなぐ仕事

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 言いかえれば、なぜ近年の優秀な起業家は「社会問題の解決」を目的とした起業を行うようになっているのでしょうか?もちろんそれとは異なるタイプの起業をする人たちもたくさんいます。しかし、2000年代前半のホリエモンのように「ベンチャーで一発あてて大儲け」的な起業スタイルは以前に比べて明らかに減っているように思われます(あるいは数としてはそれほど変わらず、注目されなくなっただけかもしれませんが)。ホリエモン村上世彰氏が逮捕された年とムハマド・ユヌスノーベル賞を受賞した年がどちらも2006年だというのは興味深い一致です。(もちろん偶然にすぎませんが)

 

 ホリエモン村上世彰氏の逮捕劇をきっかけとして、浮ついたITベンチャーブームは一気に萎んでいくことになりました。その代わりに登場してきたのが、社会問題の解決を前面に押し出した社会的起業であったわけです。ここには明らかに「起業」イメージの変化があります。おそらくその変化が意味しているのは、「お金儲け」から「社会貢献」へという転換です。もちろんすべての起業家のスタイルががらっと「お金儲け」から「社会貢献」へ転換したわけではなく、あくまで社会的に注目を集める起業のスタイルがそのように変化したということにすぎないのですが。

 

 余談ですが、ここ数年の就職活動では「社会貢献をしたい」「社会の役に立つ仕事がしたい」という志望動機を述べる学生が増えているそうです。一時期は「自己実現をしたい」「自分の夢をかなえたい」「自分の好きなことを仕事にしたい」という旨の志望動機を述べる学生が多かったそうですが、最近では「社会貢献」がトレンドだそう。(しかし、いま「就職活動 社会貢献」でググってみたところ、「就職活動で社会貢献はNGワード」という記事がたくさんあがってきました。就活生の皆さんは気をつけましょう)ここにも「起業」イメージの変化と同様の変化が起こっているように思われます。

 

 実際に内閣府が毎年行なっている世論調査でも「社会の役に立つことがしたい」と答える人の割合は毎年増えています。

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参考:内閣府「社会意識に関する世論調査」平成23年度

 

 社会的企業の出現に象徴的に見られる「社会貢献への欲望」の理由は一体何なのでしょうか。前回の議論と結びつけてみるならば、ここで強調されているのは、「お金持ちになりたい」「会社を大きくして有名になりたい」といった利己的欲望ではなく、「社会の役に立つ仕事がしたい」「社会問題を解決したい」といった利他的動機です。もちろんオープンソース運動と同じく、ここでも無私的な利他性が主張されているわけではなく、きちんと収益も稼ぎながら、同時に社会問題の解決も図るという「利己的欲望と利他的行為の両立」が図られているわけです。

 

 問題は、なぜ「社会貢献」という利他的行為の側面が近年の日本でひとつの欲望の対象となっているのかということです。そう、昨今の日本では「社会貢献」は単に利他的行為(他人のため)であるだけでなく、それ自体が利己的な欲望(自分のため)の対象にもなっているのです。社会的企業/起業家が注目され、就職活動の志望動機に社会貢献が増え、社会の役に立つことをしたいと答える人の割合が増えていることなどがその証左です。

 僕の研究テーマ(労働の思想史)からいえば、この変化は同時に日本人の労働観の変化の兆しを表しているのかもしれません。ではなぜこのような変化が生じてきたのか?それを次回の記事で考えてみたいと想います。

 


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