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草食系院生ブログ

「労働」について思想史や現代社会論などの観点からいろいろ考えています。日々本を読んで考えたことのメモ。

なにが「シェア」への欲望をもたらしているのか?-脱所有・脱消費・脱貨幣にむけて

 前回は「フリー経済」について書いたので、今回は「シェア経済」について書きます。「シェア」はネット業界に限らず、ここ数年の流行キーワードのひとつです。シェアハウス、カーシェアリング、ワークシェアリングなど。facebookにも「イイネ!」機能とともに「シェア」機能がありますね。なぜ近年「シェア」概念が注目されるようになったのでしょうか?

 

 その背景にはやはり、インターネットの普及が大きな影響を及ぼしていると考えられます。インターネット上では「ロングテール」的にマイナーな嗜好・利害をもつ人々どうしが結びつきやすい。例えば、マニアックな趣味を持つ人やマイナーなアーティストを応援する人などは、ネット普及以前には同好の士を見つけるのが難しかったでしょうが、今ではネット上のコミュニティやファンサイトなどで、マイナーな嗜好や関心をもつ共有することが昔よりもずっと容易になりました。

 

 これと同様に、ネット上ではマイナーな利害を持つ人どうしのマッチングもしやすくなりました。例えば、カウチサーフィンというサイトでは、世界中の人々が自分の家のスペースを旅行者に無償で貸し出すというサービスが行われています。部屋の貸し手は、宿泊者(借り手)とのコミュニケーションを楽しむことを目的として、無償で家の空きスペースを提供しているというわけです。カウチサーフィンは現在、207ヶ国480万人に使われている、無料の国際的な宿泊プラットフォームに成長しています。また、無償ではないけれども、自宅の空いている部屋を旅行者に貸し出すルームスティというサイトもあります。

 

 物のシェアや交換のためのネットサービスも発達してきています。ジモティというサイトは「もういらなくなったもの」(中古品)を無償または格安で譲りたいという人のための、フリーマーケット的スペースとして機能しています。Livlisというサイトでは、「ほしいもの」と「いらなくなったもの」をユーザーどうしが譲りあったり交換しあったりしています。また、ヤフーオークションなどのオークションサイトでも「いらなくなったもの」がオークション形式で取引されていますね。アマゾンのマーケットプレイスでは多くの中古品が安価に売られています(1円で売られている中古美品なども珍しくない)。海外では、世界最大のオークションサイトであるeBayが有名ですね。

※参考記事: 安価に家具・家電が欲しいなら「Sayonara Sale」をチェックすると良いかも(ihayato.書店)

 

 近年、これらの様々なシェアサービスが発達・普及してきた理由としては、)インターネット上で「ロングテール」的にニッチなニーズを持ったものどうしが出会いやすくなったこと、2)「P2P」的に公的機関や民間企業などの媒介を経ずともユーザーどうしが直接に結びつきやすくなったこと、3)情報の交換だけであればほとんどコストがかからないためにボランティア的行為がなされやすいこと、などが挙げられるでしょう。

 

 『シェア』の著者であるレイチェル・ボッツマンとルー・ロジャースは「シェア」に伴う概念として「コラボ消費」を提唱しています。従来の成長経済における個人単位の「むだづかい消費」に替わって、仲間どうしで、あるいはコミュニティ内で、「つながり」を作りつつ「共同で」消費することによって、より魅力的な経済活動を行おう、というわけです。

シェア <共有>からビジネスを生みだす新戦略

シェア <共有>からビジネスを生みだす新戦略

 

「人々は、日々コラボ消費を実践している――昔ながらの共有、物々交換、貸し出し、売買、借り入れ、贈与、そしてスワップは、テクノロジーとP2Pのコミュニティをとおして新たな形に生まれ変わった。コラボ消費によって、人々はモノやサービスを所有せずに利用することの莫大なメリットに気づいただけでなく、同時にお金や空間、時間を節約できることも、新しい友人を作れることも、活発な市民に戻ることができることにも気がついた。SNSスマートグリッド、そしてリアルタイム技術のおかげで、時代にそぐわない過剰消費の習慣から抜け出して、自動車や自転車のシェアといった共同利用にもとづく革新的なシステムをつくることが可能になっている。これらのシステムは、利用効率を上げ、ムダを減らし、よりよい商品の開発を促し、過剰生産と過剰消費によって生まれた余剰を吸収することで、環境に大きく貢献する。」(『シェア-〈共有〉からビジネスを生みだす新戦略』)

 

  このようにボッツマン=ロジャースは、最新のITテクノロジーを用いてモノやサービスを「シェア」することによって、過剰生産と過剰消費のサイクルから抜け出し、現存のモデルとは異なる経済-社会のあり方を目指すことを提唱している。ここに、現代社会のなかで非-資本主義的な領域を見出すひとつのヒントがあるのではないでしょうか。

 

 さらにボッツマン=ロジャースはコラボ消費*1を介して「脱所有」「脱消費」「脱貨幣」などのアイデアを提唱しています。これだけ物質的に豊かで、モノやサービスの交換が容易になっている社会では、従来のように個々人が必死にお金を稼いで個別に商品を買わずとも、みんなでそれをシェアすることによって、より豊かにゆとりをもって暮らしていくことができるのではないか、というのが彼らの提案なのです。

 

 もし「シェア」が広がることによって、本当に「脱所有」「脱消費」「脱貨幣」を実現できれば、過剰生産-過剰消費のサイクルから抜け出し、非-資本主義的領域を拡張することができるかもしれない。少なくとも、インターネットを介して経済-社会の一部にそのような動きが生まれ始めていることは間違いがないでしょう。

 

 重要なのはこれらの動きが、「正義(理想的社会)を実現するために欲望を我慢しよう」というかたちでネガティブになされるのではなく、「シェア」「コラボ消費」などを介した「つながり」を求める欲望に沿って(あるいは単純にムダを節約し経済的効率性を求めようとする欲望に沿って)ポジティブになされているということです。往々にして、正義や理想の実現のために欲望を断念する、という努力は長続きせず、結果的にその正義や理想は達成されません。あくまで欲望を断念しないかたちで、これまでの欲望とは別のかたちの欲望を育て上げ、その欲望を前向きに追求していくことによってこそ、その運動は長期的に持続し、目指すべき状態が達成されやすくなるでしょう。

 

つながり 社会的ネットワークの驚くべき力

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 近年、ネット界隈で流行している「フリー」や「シェア」の概念は、これまでの資本主義経済システムに替わる(あるいは補完する)、新しい経済-社会への理想と欲望を喚起し、欲望を断念しないかたちで、人々をその新しい理想へ向かわせるテクノロジーが発達してきたからこそ、可能になったものだと言ってよいでしょう。

 もちろんこれらの動きは数百年をかけて形成されてきた巨大な資本主義経済市場の規模には及ぶべくもありませんが、ITテクノロジーの今後の発展とともに、さらに「フリー経済」や「シェア経済」の規模も拡大し、資本主義とは異なる経済領域(脱所有・脱消費・脱貨幣)が創られていくこともまた確かでしょう。資本主義的領域と非-資本主義的領域の双方が今後どのような発展や変容をみせ、どのような関係性を取り結んでいくかに注目していく必要があると思われます。

 

これからの日本のために 「シェア」の話をしよう

これからの日本のために 「シェア」の話をしよう

*1:ボッツマン=ロジャースは、コラボ消費の事例として、プロダクト=サービス・システム、再分配市場、コラボ的ライフスタイルの三つを挙げ、それらの成功事例に共通する四つの原則として、クリティカル・マス、余剰キャパシティ、共有資源の尊重、他者への信頼、を挙げています。