草食系院生ブログ

「労働」について思想史や現代社会論などの観点からいろいろ考えています。日々本を読んで考えたことのメモ。

21世紀型グローバリゼーションがもたらすもの -野口悠紀雄『資本開国論』より part1

 昨日の記事の続き。先進諸国が慢性的な国内雇用不足に陥っているのはなぜなのか?これをうまく説明してくれるのが経済学者・野口悠紀雄さんの『資本開国論』です。野口さんは「21世紀型グローバリゼーション」というキーワードを使いながら、先進諸国の国内雇用が縮小・流出していく仕組みを分かりやすく解説してくれています。

 

 

 野口さんの説明はこうです。

 20世紀における産業の中心は製造業であったから、「20世紀型のグローバリゼーション」とは、工業製品が国境を越えることだった。ところが1990年代以降の世界で広がっている「21世紀型のグローバリゼーション」は、「労働」と「資本」という生産要素が直接に国境を越えることを意味している。工業製品(モノ)だけでなく、労働力(ヒト)と資本(カネ)が国境を自由に越えて移動することが1990年代以降におけるグローバリゼーションの本質である。ヒト・モノ・カネという三つの生産要素が国境を越えて自由に世界中を移動するようになる状態こそが、現代における「グローバリゼーション」の定義になる。

 

 21世紀型グローバリゼーションのきっかけとなったのは、(1) 冷戦の崩壊と (2) インターネットの登場、という二つの出来事だ。

 (1) 冷戦の崩壊に伴って、中国・ロシアをはじめとする旧社会主義国が市場経済に参入し、旧社会主義経済圏に閉じ込められていた膨大な低賃金労働力が資本主義経済圏に取り込まれることとなった。その結果、冷戦期には西欧先進国を中心とする10億人で市場経済を行っていたものが、冷戦崩壊後は旧社会主義国を含めた50億人で市場経済を行うように変化したと言われている(このなかには、インド・ブラジルのような非旧社会主義系の新興国も含まれている)。このようにして市場経済のプレーヤーが急増した結果、欧米や日本などの先進国には賃金の大きな下方圧力がかかることになり、このことが後に説明する労働力の再配置に大きく影響を与えることになった。

 

 また、(2) インターネットの登場によって、通信コストが劇的に低下した。これによって、いまや地球的な規模で情報の伝達に必要なコストはほぼゼロになっており、このことが通信回線を利用して距離に関係なく仕事をする可能性を大きく広げた。また、コンピューター・テクノロジーの発達によって、これまで複数人で行っていた作業を一人で行うことが可能になり、商品や顧客に関する大量の情報をデータベースで管理したり、クリックひとつで巨額のマネーを国境をまたいで瞬時に移動させたりすることが可能になった。インターネットを含むコンピューター・テクノロジーの発達は、世界経済の在り方や人々の働き方、資本の流れを大きく変えつつある。

 

 この二つの要因によって、市場経済のプレーヤーが急増し、技術的にも労働力を移転しやすくなった結果、欧米や日本などの先進国には賃金の大きな下方圧力がかかることになる。その象徴のひとつが「オフショアリング」である。オフショアリングとは、「企業が自社の業務プロセスの一部、または全部を海外に移管・委託すること」を意味し、「海外アウトソーシング」とも呼ばれる。

 

 「21世紀型グローバリゼーション」の進行によって世界の事業拠点間の立地格差が大幅に縮小すると、生産拠点だけではなくコールセンター業務やソフトウェア開発、バックオフィス業務などのさまざまな業務の海外移転が行われるようになる。つまりオフショアリングは、これまでブルーカラーの製造業を中心に行われてきた労働力の海外移転が、ホワイトカラーのサービス・事務処理・技術開発業務などにまでその対象範囲を拡大してきたことを意味している。さらに近年では税務、会計、法律関係などの専門業務を海外へアウトソースする欧米企業も増えており、今後は技術開発や事務系専門業務などの生産性の高い複雑労働も海外へ移転されていくことが予想されている。

 

 このように21世紀型グローバリゼーションおよびオフショアリング(海外アウトソーシング)が進行すれば、必然的に先進諸国内の雇用の多くは、賃金の安い新興国・途上国へと流出していきます。そのコストが20年前に比べて格段に下がっているので当然の成り行きですね。さらにIT技術が発達したことで、従来は3人かけて手作業でやっていた仕事がPCを使って1人でできるようになったりします。効率化・省人化と呼ばれるやつですね。これがさらに国内雇用の縮小をもたらす。

 

 つまりグローバル化とIT化の二つが90年代~00年代にかけて飛躍的に進んだために、先進諸国の国内雇用の流出と縮小が一気に進んだわけです。このスピードが、少子高齢化の影響を追い抜き、先進諸国に慢性的な雇用不足・失業率の高止まりをもたらしている。とくにそのしわ寄せがを喰らうのは若年層です。若年失業率の推移をまとめたグラフをいくつか並べてみます。2000年代以降に若年失業率がじわじわ上昇、とくにリーマン・ショック以後、顕著に若年失業率が急上昇し、高止まりしていることが分かります。

 

f:id:windupbird:20121026020228g:plain

日本の若年失業率の推移(内閣府『平成22年版 子ども・若者白書』より)

http://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h22honpenhtml/html/zuhyo/zu1208.html

 

f:id:windupbird:20121026020241g:plain

EU諸国の若年失業率推移(Garbagenews.comさんより)

http://www.garbagenews.net/archives/1973281.html

 

f:id:windupbird:20121026020240g:plain

EU全体+米国の若年失業率推移(Garbagenews.comさんより)

http://www.garbagenews.net/archives/1973281.html

 

 このような傾向(21世紀型グローバリゼーションの進行→オフショアリングの広がり→先進諸国内の雇用が流出・縮小→若年層を中心に失業率が高止まり)は今後もしばらく続くと予想されます。最近では、佐伯啓思先生や中野剛志さん、柴山桂太さんなど、グローバリゼーションの進展に警鐘を鳴らす主張も出始めていますが、そのような声はまだ少数派と言うべきでしょう。

 このような雇用不足の状況をわれわれは今後どのように乗り切っていけばいいのか。次回以降、そのことを考えていきたいと思います。