草食系院生ブログ

「労働」について思想史や現代社会論などの観点からいろいろ考えています。日々本を読んで考えたことのメモ。

なにが「シェア」への欲望をもたらしているのか?-脱所有・脱消費・脱貨幣にむけて

前回は「フリー経済」について書いたので、今回は「シェア経済」について書きます。「シェア」はネット業界に限らず、ここ数年の流行キーワードのひとつです。シェアハウス、カーシェアリング、ワークシェアリングなど。facebookにも「イイネ!」機能ととも…

「フリー経済」は資本主義社会をどのように変えるか?

以前の記事で、雇用が収縮する低成長社会においては、非-資本主義的領域を拡張していくことが重要になるのではないか、と書きました。では具体的には、非-資本主義的領域とはどのような領域なのでしょうか? 現代社会における非資本主義的領域を考える際に…

ハイパー・メリトクラシー社会における「宿命的なもの」

前回記事の最後に「ポスト工業社会において必然的に生じてくる格差(労働の二極化)は、努力によってはどうしようも変えようのない「宿命的なもの」に思えてきてしまうことすらある」と書きました。このことを、若者の雇用問題に詳しい教育社会学者の本田由…

ポスト工業社会における「労働」のゆくえ

(だんだん思想史的な記事を書くのに飽きてきたので、突然ですが現代の労働について書きます。) ポスト工業社会では労働が二極化しやすい、という話をあえて戯画化したイメージで語ってみると次のようになるでしょう。 工業社会ではベルトコンベアの前での…

マルクスの唯物論はヘーゲルの労働観をどのように批判したのか -マルクス『経済学・哲学草稿』より

前回までヘーゲルの労働観について書きました。 ここでぐるっと一周してマルクスの労働観に戻ってくるのですが、若き日のマルクスはヘーゲルの思想を批判することによって自身の労働観を形成していきました。『経済学・哲学草稿』のなかでマルクスは次のよう…

「労働」と「承認」の弁証法 -ヘーゲル『精神現象学』より

前回はヘーゲルの『法の哲学』における、Bildung(陶冶=教養)の営みとして労働を位置づけるというヘーゲルの労働観について書きました。今回はヘーゲルの不朽の名著『精神現象学』における、「承認」獲得のための営みとしての労働について書いてみます。 …

「陶冶」=「教養」としての労働-ヘーゲル『法の哲学』より

今回はヘーゲルの労働観についてです。 ヘーゲルはアダム・スミスの『国富論』から影響を受けながら、市民社会の本質を「欲求の体系」に見出し、独自の市民社会論を構想しました。ヘーゲルにとっての市民社会とは「市場経済」とほぼ同じ意味です。『法の哲学…

「労働力商品の無理」ー宇野弘蔵『恐慌論』とポランニー『大転換』より

久々にブログ更新。 前回の記事では、フーコー講義録『安全・領土・人口』を参照しながら、人間の自然性および生物性を認識することによってこそ、近代の資本主義運動が開始され、それを円滑に機能させるための生権力統治が成立したことを書きました。この…

「自由放任(レッセ・フェール)」と市場・社会・人口の自然モデル ーフーコー『安全・領土・人口』より part3

前回からの続きです。 前回は、17世紀以降に登場した統治=ポリスが初期資本主義(商工業)と同時並行的に発展し、それ自体が市場システムの一部をなすようになったこと、またその統治=ポリスの発展が労働力商品の集合としての「人口」を統治対象とするもの…

ポリス・統治・生権力 -フーコー『安全・領土・人口』より part2

前回からの続き。 スミス-フーコーによれば、17世紀以降に出現した「統治としてのポリス」は、発展しつつある商工業(資本の増殖運動)をスムーズに機能させるための諸機能であり、具体的には都市の公衆衛生を高め、犯罪率を減らし、都市間の流通経路を確保…

内政としての「ポリス」とは何か? -アダム・スミス『法学講義』とフーコー『安全・領土・人口』より

アダム・スミスは『法学講義』のなかで、ポリスpolis(内政・生活行政)の役割について論じている。スミスによれば、ポリスはもともとギリシア語の「ポリテイア」から出たものであり、それが本来意味していたのは「国内統治の政策(the policey of civil gov…

「人間」の時代の到来とその終焉の予言 -フーコー『言葉と物』より

前回の記事で書いた、アダム・スミスの労働価値説について、フーコーが『言葉と物』のなかで興味深い指摘をしている。よく知られているように、フーコーは『言葉と物』のなかでルネッサンス以降の西洋の知の枠組み(エピステーメー)の変遷を描いてみせた。…

分業、交換性向、労働価値説 -アダム・スミス『国富論』より

今回は、経済学の父、アダム・スミスの労働観についてです。 アダム・スミス(1723-1790) アダム・スミスの『国富論』が、ピン工場の分業の例から始められていることは有名です。一人の職人がピンを最初から最後まで製造するよりも、複数の労働者で作業を分…

労働による「文明化」への道 -ヒュームの積極的労働観

今回取り上げるのはヒュームの労働思想です。ヒュームは18世紀イギリスで活躍した思想家であり、アダム・スミスに並ぶスコットランド啓蒙の代表的思想家とされています。ここではヒューム研究の第一人者である坂本達哉さんの『ヒュームの文明社会』および『…

イギリス史概観(16世紀~17世紀)

ここで山川出版社の『詳説 世界史研究』や小室直樹『日本人のための憲法原論』を参照しつつ、16世紀から17世紀にかけてのイギリス史を確認しておきたい。イギリスの思想家を中心とする労働思想の発達を確認するうえで、イギリスの歴史を押さえておくことがそ…

労働と貨幣 -ジョン・ロック『統治二論』より part2

前回からの続き。 完訳 統治二論 (岩波文庫)作者: ジョン・ロック,加藤節出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2010/11/17メディア: 文庫購入: 10人 クリック: 94回この商品を含むブログ (75件) を見る ロックは労働によって所有権を基礎づける労働所有権論を提…

労働と所有権 -ジョン・ロック『統治二論』より

16~17世紀のイングランドを中心に、勤労規範が形成され、貧民・浮浪者が「労働者」へと仕立てあげられていく過程をみてきました。このような時代背景を背に、労働という行為を積極的に評価する思想が登場してきます。そのひとりが、『統治二論』において自…

労働を通じた「教育」と「矯正」 -フーコー『狂気の歴史』より

前々回の記事で、16世紀のイングランドにおいて救貧対策が開始されたことについて書きました。復習しておくと、ヘンリ8世の時代(位1509-1547年)に、貧民を病気等のために働けない者と怠惰ゆえに働かない者に分類し、前者には物乞いの許可をくだし、後者に…

「労働倫理」の誕生 -ウェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』より

前回の続き。資本の本源的蓄積の結果、16世紀イングランドにて都市に増加した貧民・浮浪者への対策として、彼らを労働能力がある者とない者とに分け、後者には最低限の生活保障を与え、前者には強制的に労働を義務づける施策が行われました。ここに「働かざ…

救貧対策の誕生 -マルクス『資本論』から資本主義の本質を考える。part 6

前回までの記事で、マルクスの「本源的蓄積」(原始的蓄積)の議論を用いて、労働力という特殊な商品が国家の論理によって暴力的な過程を経て産みだされてきたことを見てきました。これが典型的に起こった16世紀イングランドの「囲い込み運動」の結果、土地…

「囲い込み運動」と「本源的蓄積」 -マルクス『資本論』から資本主義の本質を考える。part 5

前回の記事では、資本主義の発動条件として「生産者と生産手段との歴史的分離過程」、すなわち「資本の本源的蓄積」が必要とされたことを書きました。この歴史的分離過程は、典型的には16世紀からイギリスで行われた「囲い込み運動」のうちに確認することが…

資本主義と国家 -マルクス『資本論』から資本主義の本質を考える。part 4

前回、労働力という商品は元から市場に存在してるものではなく、歴史的過程のなかで人為的・暴力的に生みだされてきたものである、と書きました。労働者が賃金と引きかえに労働力を提供するという交換の形式が普遍化している事態は歴史的に特殊で珍しいもの…

「二重の意味で自由な労働者」とは誰か? -マルクス『資本論』から資本主義の本質を考える。part 3

前回の記事で、G-W-G' という資本の価値増殖を可能にさせるのが「労働力」という特殊な商品であることを書きました。ところでこの「労働力商品」は、自然にもとから存在していたものではありません。それは人為的・強制的に創りだされなければならなかった…

「労働力商品」の特殊さ -マルクス『資本論』から資本主義の本質を考える。part 2

前回の続きです。前回は、マルクスの『資本論』を用いて資本の本質が「価値の無限増殖運動」にあること、資本の一般定式がG-W-G' で示されること、を説明しました。 ところで、このG-W-G' という資本の一般定式はあくまで等価交換に基いて実現され…

マルクス『資本論』から資本主義の本質を考える。

これまでの記事のなかで何度か「非-資本主義的経済圏」を創出・再興することが必要だと書いてきました。「非-資本主義的経済圏」とは具体的にはどのようなものなのか?今回はそれを考えてみます。 非-資本主義的な経済圏がどのようなものであるかを考える…

「雇用収縮の時代」を生きる。

僕たちは「雇用収縮の時代」を生きています。いま先進国が共通して抱えている問題は「国内雇用の不足」です。たとえ景気が回復しても、なかなか雇用が回復しない。失業率が高止まりを続け、とくに若年世代がそのネガティブな影響を強く受けることになります。…

「シンボリック・アナリスト」、あるいは「変人」と「精神分析家」

ヒト・モノ・カネが一体化して国境を超える21世紀型グローバリゼーション(ハイパーグローバリゼーション)が進むと、先進諸国内の雇用は縮小・流出し、慢性的な雇用不足に陥ることになります。さらに商品・サービスのコモディティ化が進み、海外から安価な…

「他とは代替できないスペシャリティになれ」という圧力

前回までの記事で、21世紀型グローバリゼーションが進むと先進国内の雇用が縮小・流出するだけでなく、商品・サービスのコモディティ化が進みやすくなると書きました。その結果として、先進国の労働者は世界中の新興国・途上国に住む労働者たちと潜在的に競…

「コモディティ化」の果てに… -野口悠紀雄『資本開国論』より part2

前回の続きです。前回の記事は、21世紀型グローバリゼーション(モノだけでなく、ヒト・モノ・カネすべてがグローバル化する現象)によってオフショアリング(海外アウトソーシング)が進み、先進諸国内の雇用が流出・縮小していく状況にある、というお話で…

21世紀型グローバリゼーションがもたらすもの -野口悠紀雄『資本開国論』より part1

昨日の記事の続き。先進諸国が慢性的な国内雇用不足に陥っているのはなぜなのか?これをうまく説明してくれるのが経済学者・野口悠紀雄さんの『資本開国論』です。野口さんは「21世紀型グローバリゼーション」というキーワードを使いながら、先進諸国の国内…